4つの「老人ホームの種類」
これから老人ホームを探そうと考えたとき、まず決めなければならないのが「老人ホームの種類」です。なぜなら、選んだ老人ホームごとで入居条件や毎月の費用が大きく異なるからです。
中には、老人ホームの種類がわかっていない状況で「評判の良い施設」を探そうとする人もいます。しかし、評判の良い施設を見つけたにもかかわらず、「入居する方(以下、入居者)の心身の状況に合っていなかった」というケースはよくあります。したがって、施設の情報を集める前にまずは老人ホームの種類を決めておくことが大切です。
そこで今回は、「入居者の心身の状況にあった老人ホームの種類の見極め方」について解説します。
実際、老人ホームを探す場合は入居者自らが中心になって探すケースと入居者の生活を支える家族(以下、家族)が探すケースがあります。この2つの違いは、入居者の「老人ホームを探す意思の有無」です。そして、こうした入居者の意思と老人ホームにかけられる「毎月の予算」などを考慮することで、「老人ホームの種類」を4つに分けることができます。
そのため、入居者の状況にあった老人ホームを探すときは、この章で紹介する4つの分類に、現在のあなた(入居者や家族)の状況などを当てはめるようにしてください。そうすることで、適切な種類を選ぶことができます。
入所者に老人ホームを探す意志があり、毎月の費用を抑えたいケース
1つ目のケースでご紹介するのは、「養護老人ホーム」「軽費老人ホーム」「ケアハウス」です。これら3つの施設は、判断能力がきちんとある入所者に向いている老人ホームです。また、毎月の費用を可能なかぎり抑えたいと考えている人向けの施設でもあります。
ここで、なぜ養護老人ホームや軽費老人ホームは毎月の費用を抑えることができるのでしょうか?
なぜなら、これらの施設は入所者の収入に応じて居住費や食費の補助があるからです。また、一定の要件を満たせば、要介護認定を受けていない「自立」の方でも入居することができます。
そのため、このタイプの老人ホームには、「施設に入所する必要がない」と思えるような元気な高齢者もいます。そして、入居者自らが老人ホームを探す場合は、可能なかぎり「元気な高齢者が多い施設」を選ぶ傾向にあります。また、自宅と同じように「自由な暮らしを続けたい」と望まれている高齢者が多いのも特徴です。
こうしたことから、男性の高齢者であれば、「毎日の食事の準備が億劫になってきたから」という理由で申し込まれるケースが多いです。その一方で、女性の高齢者であれば、「一人で生活するのが不安になったから」という理由で申し込まれるケースもあります。
これら3つの施設では、外出も自由にできますし、施設に届出をしておけば長期外泊も可能です。ですので、老人ホームといっても、自宅での生活とほとんど変わりません。このようなことから、「軽費老人ホーム」や「ケアハウス」に入所を申し込まれる方は多いのですが、他のタイプの老人ホームに比べると施設数が少ないのが現状です。そのため、空き部屋が無い施設も多く、申し込みをしてもすぐには入所できないケースもあります。
また、入所されている高齢者もお元気な方が多いです。そのため、空き部屋はなかなか出ませんので、申し込みをしてから1年以上も入所を待ち続けている高齢者もいます。そうなると、入所者や家族の状況も変わってくるため、待機者の中には待ちきれずに別の施設に入所される人もいます。
そして、養護老人ホームやケアハウスには、他の施設とは違う弱みもあります。その弱みとは、基本的に施設スタッフの「介護サービスが受けられない」ということです。
高齢者向けの施設なので、もちろん日常生活の支援(食事の提供や安否の確認など)は受けられます。ただ、「食堂まで一人で行けない」「認知症が進行して、自分の部屋がわからなくなる」といった状態になってしまうと、施設を退去しなければならないこともありますので、こうしたことを踏まえて施設を選ぶようにしましょう。
「軽費老人ホーム」や「ケアハウス」の対象者像
毎月の費用を可能なかぎり抑えたい人 介護は必要ないが、「毎日の食事の確保が大変」「一人で生活するのが不安」と考えている人 要介護認定を受けていない人、もしくは要支援1,2の人
入居者に老人ホームを探す意志があり、介護サービスを充実させたいケース
2つ目のケースでご紹介するのは、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」「住宅型有料老人ホーム(住宅型)」です。この2つは、前節でご紹介した「軽費老人ホーム」などに比べると、毎月の費用は高くなります。
しかし、その代わり施設に併設しているデイサービスで入浴の介助をしてもらったり、認知症の症状が軽い方であれば施設スタッフからの支援を受けたりすることで介護が必要になっても入居を続けることができます。
また施設によっては各居室にキッチンや浴室などがついている場合もあります。このような施設では、自宅と同じように毎日食事を作られている高齢者もいますし、お風呂も好きな時間に入ることができます。
なお、サ高住や住宅型では1週間のうちに何度かは併設しているデイサービスに通っていただき、リハビリやレクリエーションに参加していただきながら日中を過ごすケースが多いです。そうすることで、身体機能の極端な低下を防ぐことができますし、デイサービスに通うことで他の入居者と交流することもできます。
日常生活については、ヘルパーさんに居室の掃除や洗濯をお願いすることもできますし、家族が面会時にそれらを行うこともできます。
ただ、入居者によっては、併設しているデイサービスに通うことを嫌がる人もいますし、入居する前に通っていたデイサービスをそのまま利用し続けたいという人もいます。
このようなとき、一体どうなるのでしょうか?
もちろん、嫌がる入居者を無理やりデイサービスに連れて行くことはできません。実際には入居後も利用するデイサービスを自由に選べる施設はありますし、デイサービスを利用しなくてもよい施設もありますのでご安心ください。
ただし、このような施設は「常駐の介護スタッフが少ない」「毎月の費用が高い」といった傾向がありますので、注意が必要です。
具体的にはデイサービスなどを利用しなくても、一人で安全に過ごせる方を入居対象者としています。そのため、介護スタッフを多めに配置しなくても入居者は安全に暮らせるという考えのもとで施設を運営しているのです。
また、老人ホームは自社の介護サービスを利用してもらうことで適切な運営を行っている施設が多いです。そして、その介護サービスをたくさん利用してもらう代わりに、他施設と比べて家賃や管理費を安くしているところもあります。
実際、介護サービスをたくさん利用してもらったとしても、利用者の多くはその費用の1割(最大でも3割)を負担するだけです。つまり、利用者の費用負担は少ないけれど、施設の収益は介護サービスの利用で大幅に増える。これが、家賃や食費を安くできる理由の一つです。
その一方で、「自社の介護サービスを利用しなくてもよい」という施設は、介護サービスの売上を当てにしていません。したがって、デイサービス利用の選択の自由があるサ高住や住宅型は他施設の家賃などと比べると割高になっているのが現状です。
このようなことから、サ高住や住宅型を検討する際は、まずは親が「デイサービスに通いたいかどうか」を確認することが大切です。
その中で親が「デイサービスには通いたくない」と希望した場合は、デイサービスの利用が条件になっていない施設を選ぶようにしましょう。ただし、先ほども説明したとおり、併設のデイサービスを利用しなくても入居できる施設は、日常生活で介護サービスをあまり必要としていない方を対象にしています。
したがって、加齢に伴って日常的に介護が必要になった場合は、介護保険外サービスの利用料金で毎月の費用が高額になることがありますのでご注意ください。
その一方でデイサービスの利用を了承してくれた場合は、サ高住や住宅型の居室だけではなく、その施設で利用できるデイサービスも見学しながら比較検討するようにしましょう。
「サ高住」や「住宅型」の対象者像
訪問介護(ヘルパーの派遣)やデイサービスを利用しながら生活できる施設を探している人 ゆったりとした居室や設備が整っている施設を探している人 要介護認定を受けていない人、もしくは要支援1~要介護2
入居者を支える家族が老人ホームを探し、介護サービスを充実させたいケース
3つ目のケースでご紹介するのは、「グループホーム」「介護付有料老人ホーム(介護付)」です。2つ目までは「入居者自らが探す老人ホーム」だったのですが、グループホームと介護付は、家族が中心になって探すときに選ばれやすい施設になります。
なぜ、家族が入居者のために老人ホームを探すことになるのでしょうか? それは、入居者が認知症を患ったり、脳梗塞の後遺症で体にマヒが残ったりして、ご自身では選べなくなるからです。そのため、こうしたケースでは、家族が「24時間365日の介護サービスが充実している施設」を選ぶ傾向にあります。
たとえば、認知症の方でも「夕食を食べたことを忘れてしまう」「服薬の管理ができない」などのように軽い症状だけであれば、前項で紹介したサ高住や住宅型でも対応できます。
しかしながら、認知症の症状が悪化して「他人の部屋に間違って入ってしまう」「施設を抜け出そうとする」というような状況になってしまうと対応が難しくなります。そのため、同じ認知症でも症状の進み具合によっては、老人ホームの種類を使い分けなけなければなりません。
それでは、認知症の症状が悪化した高齢者は、どのような施設を選べばよいのでしょうか? このような方々には、「起床時や食事の声かけ」「入居者の服薬の管理」など、定期的な見守りが必要になります。また入居して間もない時期は、「外も暗くなってきたので、そろそろ自宅に帰ります……」というような言動を繰り返す人もいます。
そうなると、入居者1人に介護スタッフが付きっきりで対応しなければなりません。また、認知症を発症していない方とは違い、論理的に説得しようとしても上手く伝わらないため、専門的な対応が必要となります。
このような状況で頼りになる施設が「グループホーム」です。このグループホームには、医師による認知症の診断を受けた方だけが入居することができます。そのため、他の老人ホームで入居を断られたような認知症の方でも積極的に受け入れてくれます。
また、施設で受け入れる入居者も1ユニット(集団)につき6~9名という少ない人数になっています。したがって、入居者一人ひとりにしっかりと関わることができるため、不穏(おだやかな状態でない)になった方でも対応できるのです。
ただ、グループホームの人員基準には、看護師の配置が義務づけられていないため、「医療的なケアができない」という施設が多いのが現状です。こうしたことから、医療的なケアが多くなってきた場合は、退去を求められる可能性が高くなります。
そこで、転居先の候補として挙がってくるのが「介護付有料老人ホーム(介護付)」です。介護付には、看護師を1人以上配置することが義務づけられているため、医療的なケアも対応可能となります。また、認知症の方でも対応してもらえますので、家族にとって最も頼れる施設といえるでしょう。
ただ、ケアハウスや住宅型などとは違って、施設外のデイサービスや訪問介護サービスを利用することができなくなります。そのため、入居者が「通い慣れたデイサービスを利用し続けたい」「いつも来てくれるヘルパーさんに掃除をしてほしい」と強く訴えたとしても、その希望を叶えるのは現実的に難しいです。
反対に「デイサービスには通いたくない」「手厚い介護サービスを受けたい」と考えているような人には介護付やグループホームがお勧めです。実際、施設内でリハビリやレクリエーションが行われたり、介護スタッフが掃除や洗濯などもしてくれたりするので、日常生活で困ることはありません。
また、施設で行われるリハビリやレクリエーションは基本的に自由参加ですので、入居者が希望されなければ居室でゆっくりと過ごしていただくことも可能です。さらに施設内の介護スタッフが24時間365日体制で入居者の生活を見守ってくれますので、「寝たきり」の状態になったとしても対応が可能です。
しかしながら、介護付もあくまで介護サービスが充実した施設です。そのため、介護サービスだけでなく、夜間から早朝にかけて医療的なケアが必要な状態になってしまうと、施設としても対応が難しくなります。
ただ、中には看護師が24時間常駐している施設もありますので、そうした施設であれば「口から食事が取れない状態になっている」「嚥下(えんげ)機能が衰えたため、定期的に痰(たん)の吸引をしなければならない」というような方でも受け入れてくれます。
とは言え、このような施設では利用料金が割高になってしまう傾向がありますので、入居者の心身の状況を見極めながら選ぶようにしましょう。
「グループホーム」や「介護付」の対象者像
認知症を患っている人 定期的な介助や見守りが必要な人 看取り介護を行っている施設を探している人 要介護1~要介護5の人
入所者を支える家族が老人ホームを探し、毎月の費用を抑えたいケース
4つ目のケースでご紹介するのは、「特別養護老人ホーム(特養)」です。この特養は、数ある老人ホームの種類の中で、要介護認定の高い高齢者(寝たきりや重度認知症)の割合が最も多いのが特徴です。
そして、特養は一般の方に最も知られている施設になります。なぜなら、入所の申し込みをしても「すぐには入れない」とテレビや新聞で報道されているのが、この特養だからです。中には2年、3年待っていても入れないケースはよくあります。
なぜ、この特養にだけ入所者が殺到するのでしょうか? 特養に申し込みが殺到する一番の理由は、入所者の収入に応じて居住費や食費の補助があるからです。また手厚い介護サービスが受けられるにも関わらず、毎月の費用も入所者の収入(主に年金)によっては10万円以下の人もいます。
こうしたことから、「常に空き部屋がある」というような施設はほとんどありません。そのため、老人ホームを探す人の中には、「申し込みが殺到している ⇒ 評判が良い施設 ⇒ 入所者や家族が理想とする施設」と考えているようです。
実際、この特養はすべての面で好条件が揃っている施設なのでしょうか?
私が老人ホームの入居相談に対応しながら感じるのは「入居者や家族の希望」は皆それぞれ違うということです。
たとえば、脳梗塞を患った男性が「リハビリを頑張って自宅に戻りたい」と望んでいる場合もあれば、母親がどのような状態になっても「最期まで同じ施設で看てほしい」と家族が望んでいる場合もあるのです。
その他にも、「家族が通いやすい場所に施設はあるのか」「他の入所者と会話を楽しめるのか」「申し込みをしたら、すぐに入所させてもらえるのか」など、それぞれの置かれた状況で希望も異なります。
しかし、これらの希望をすべて満たしているのが“特養”というわけではありません。
そして、特養に入所できるのは原則として要介護3以上の認定がおりている方となりますので、誰でも申し込めるわけではありません。
また、入所後に心身の状態が良くなったため、要介護3よりも認定が軽くなった場合(要介護1・2など)は、前節で紹介した有料老人ホームなどに転居しなければならないこともありますのでご注意ください。さらには、入所を希望される人が後を絶ちませんので、何年も待たされる可能性もあります。
ただし、特養は緊急性の高い人が優先的に入所できる仕組みになっているため、中には申し込みから1~2ヶ月ほどで入所できる方もいます。具体的には「要介護度が高い方」「身寄り(配偶者や子)がいない方」「在宅で介護サービスをたくさん利用されている方」などが優先されます。
したがって、特養の申し込みをした時点の認定は「要介護3」、また現在は介護付に入所しており、身寄りとなる子供は親(入所者)と同じ地域で生活をしているというような状況の方はなかなか入所できない場合もあります。
とは言え、中には入所の順番がまわってくるまで「これ以上は在宅介護を続けることはできない」という方もいます。
そうしたときは無理をせずに介護付やグループホームに親を預けて特養の空き部屋が出るのを待つようにしてください。毎月の費用は予算を超えてしまうかもしれませんが、あなたが倒れてしまったら元も子もありませんし、実際にそうなった場合は希望している施設ではなく、空き部屋のある老人ホームに親を預けなければなりません。
現に介護付やグループホームから特養に移られる高齢者もたくさんいますので、あなたの精神的、身体的状態を考慮しながら施設を選ぶようにしましょう。
「特養」の対象者像
毎月の費用を可能なかぎり抑えたい人 定期的な介助や見守りが必要な人 看取り介護を行っている施設を探している人 要介護3~要介護5の人