メニュー 閉じる

経営が危ない老人ホームの見分け方

経営が危ない老人ホームの見分け方

多くの人が“終の棲家”と考えて入居する老人ホーム。その老人ホーム選びは当然慎重になりますし、入居したあとは老後の不安から解放されたいものです。しかし、実際には老人ホームに入ったからといって絶対的な安心が約束されているわけではありません。

なぜ、老人ホームに入ったからといって絶対的な安心が約束されているわけではないの?

なぜなら、長期入院や認知症の進行で施設を退去しなければならないということもあるからです。中には入居者の事情ではなく老人ホーム側の事情で退去を迫られることがあります。

しかし、なぜ入居者は施設に迷惑をかけていないのにもかかわらず、退去しなければならないのでしょうか?

それはズバリ、施設の“倒産”です。

東京商工リサーチの調べによると老人福祉・介護事業の倒産は2016年から3年連続で100件を超えています。その数は2013年の約2倍となっているのです。

こうした状況ではありますが、倒産した施設に入居した方々は自分で選んだ施設から強制的に退去させられるなんて夢にも思っていなかったはずです。むしろ、「この施設であれば安心だ」と思って選ばれるのではないでしょうか。

そこで、今回は“経営が危ない老人ホームの見分け方”について解説します。

入居する老人ホームを選ぶときに確認するべきこと

私自身、2004年から介護業界で働き始めて、様々な経営者と会ってきました。その中で倒産する老人ホームとそうでない老人ホームを一目で見分けることができるのかというと、自信を持って「ハイ!」と答えることはできません。なぜなら、介護に対する熱い思いを持たれながらも泣く泣く事業の継続を断念された方をたくさん知っているからです。

福祉の仕事とは言え、やはり介護業界でも競争原理が働いています。そのため、老人ホームの経営者は介護に対する熱い思いだけではなく、施設を適切に運営する経営力を持っていなければならないのです。

では、この経営者が持つ経営力を老人ホームの見学時にどうやって確認すればよいのでしょうか?

一般的に老人ホームの見学では「入居者や介護スタッフの表情はイキイキとしているか?」「清掃は行き届いているか?」「看護師は常駐しているか?」といったことを確認する人は多いです。こうしたことについては、見学で確認することができますが、たった一度や二度の見学で経営者の経営力まで見抜くことはできるのでしょうか?

少なくとも私はそのような方法を知りません。それに、見学に対応してくれる方が必ずしも経営者というわけでもありません。したがって、入居する老人ホームの経営が危ないかどうかを見学だけで見分けることは非常に難しいことなのです。

では、経営が危ない老人ホームを見分ける方法はないのかというと、決してそのようなことはありません。見学者の誰もが確認できるポイントが1つだけあります。

そのポイントは老人ホームの入居率です。

これは老人ホームの規模の大小にかかわらず、共通のチェックポイントになります。たとえば、老人ホームの居室の数が10室と50室ある施設を比較した場合で考えてみましょう。ここでは条件を揃えて、どちらの施設も空室が5つあると仮定します。そして、実際に入居率を計算すると居室が10室ある施設は50%(計算式/5÷10)。50室ある施設の入居率は90%(計算式/45÷50)になります。

実際、空室の数だけで比較すると2つの施設は同じ状況のように感じてしまいますが、入居率を見比べることによって経営状況が全く異なることを想像できるのではないでしょうか。

なお、この入居率がどのような数値になっていれば、健全な経営ができているのかというと、目安としては80%以上を保ち続けていることです。

実際、見学時は偶然にも入居率が80%を超えていたが、以前はずっと50%を何とか超えている状況だったというケースもあります。したがって、入居率が80%以上を保ち続けていることが重要です。これが老人ホームを選ぶときの1つの基準となるでしょう。

ただし、この基準は開設したばかりの老人ホームでは当てはまりません。具体的には開設から2年以上経過しているにもかかわらず、入居率が80%を下回っている施設を選ぶときに細心の注意を払うようにしましょう。とは言え、中には開設から2年以上経過している施設の入居率が50%を下回っていたとしても、運営母体の会社経営が安定しているという理由から老人ホームの経営が危ないとは呼べないケースもあります。

したがって、一概に入居率だけで経営状況を判断することもできないのです。

しかし、入居率が低い老人ホームは入居率が高いところに比べて「入居者や家族(入居者の家族)の要望を満たしていない」「地域のケアマネジャーなどから評価されていない」という可能性が高いのは事実です。それに、そのような状況が長期間続いた場合は、運営母体がどんなに大きな会社でも事業の継続を断念することになるでしょう。

こうしたことから、入居する老人ホームを選ぶときは、見学時に入居者や介護スタッフの表情や声を確認したり、施設内の衛生面やニオイを確認したりするとともに入居率も尋ねるようにしましょう。

入居した老人ホームの運営に不安を感じたときの対処法

“終の棲家”と考えて選ぶ老人ホーム。自分で選んだ老人ホームが倒産してしまうなんて普通は考えませんよね。なぜなら、見学時に「この施設の運営は本当に大丈夫?」と不安に感じたときは、その老人ホームを選ぼうとしないからです。

しかし、こうしたことは老人ホームを開設する経営者にも当てはまります。自分で開設した老人ホームが倒産するなんて、誰も考えていません。むしろ“上手くいく”と思って事業を起こすのです。それに、もし経営者が倒産することを事前にわかっているのであれば、その人は老人ホームを開設することはありません。また金融機関も倒産することがわかっている経営者に多額の融資をすることはありません。

これは、お金の専門家である金融機関も“介護事業所の倒産を見抜けない”ということを意味しています。それに年間100件を超える倒産事例が発生しているという事実もこのことを証明しています。

こうしたことから、あなたが選んだ老人ホームが“倒産する可能性がある”ということだけは認識しておくようにしましょう。そこで、この節では入居した老人ホームの運営に不安を感じたときの対処法について解説していきます。

前節で「経営が危ない老人ホームを見分ける方法」について解説しましたが、実際に入居している場合は、倒産の予兆を察知できるようになります。その予兆は大きく分けると4つです。

1つ目は施設長や介護スタッフの入れ替わりが激しすぎるです。

厚生労働省“新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率”の調査でも医療、福祉は離職率が高い業界という結果が出ています。その中でも特に倒産しそうな施設では「施設長が毎年のように変わる」「介護スタッフの入れ替わりが激しすぎて名前と顔が覚えられない」といったことから、入居者や家族は「困ったことを誰に相談すればよいかわからない」という状況に陥ってしまうのです。

次に2つ目はサービス内容が著しく低下するです。

いつも美味しそうに食べていた母親が「口に合わない」と食事を残すようになった。介護スタッフはいつも忙しそうにしているため、オムツ交換が必要な父親はほったらかしにされている。施設に電話をしてもなかなかつながらないし、留守電を入れても折り返しの連絡もない。

このように、入居した当時と比べて、サービス内容が著しく低下した場合は経営が危なくなってきていると捉える予兆の1つと言えるでしょう。

そして3つ目は入居者や家族の改善要求を聞き入れてくれないです。

施設長や介護スタッフの入れ替わりが激しい。また、必要な介護サービスを提供してくれない。実際にこのような状況になると、親の介護でお世話になっている家族も預けている施設に不満を言いたくなるものです。

そこで、意を決した家族が改善してもらいたいことを施設側に伝えたにもかかわらず、要望を聞き入れてくれない。もしくは、話を聞いてくれただけでサービス内容は一向に見直されない。こうした状況が続くといよいよ倒産する可能性が高まってきます。

その結果、4つ目の他の入居者が次々に退去していくという状況を生み出すのです。

この悪い流れを食い止めるのはそう簡単なことではありません。ベテランの介護スタッフはほとんど残っていない。そして人手も足りていない。さらには退去者の増加から経営状況がますます悪化している。実際、このような状況を作ってしまった経営者が立て直しを行うのは非常に困難なことです。中には事業譲渡で経営者が代わり、老人ホームの再建が進む場合もありますが、その一方で介護スタッフの一斉退職から、ある日突然に施設の運営が滞ることもあるのです。

したがって、このようなことを想定して「親を預けている老人ホームの経営が危ないのではないのか?」と不安に感じたときは、他の施設情報を集めるようにしましょう。

ただし、転居先の施設を調べていたとしても、転居するタイミングによって空き部屋がないこともあります。そのため、可能であれば「施設の再建に期待が持てない」と感じた時点で引越しの準備を始めることをお勧めします。

老人ホーム選びで最も大切なこと

私は2011年から老人ホーム選びでお困りの方を支援するサービスを行っていますが、その中で「老人ホームを探す時間が限られていることが家族を最も悩ませている」ということを感じました。

実際、親が元気なうちから「不測の事態に備えて親を預ける老人ホームを探しておこう」と考える家族はほとんどいません。多くの場合は認知症が進行したり、1人で歩けなくなったりした時点から老人ホームを探し始めるのです。つまり、良い施設が見つかるまでじっくり探すというような時間はないのです。

さらには「特別養護老人ホームとグループホームって何が違うの?」「毎月の費用はどれくらいかかるの?」「施設情報ってどうやって集めればいいの?」といった状況で親を預ける老人ホームを選ばなければなりません。

こうしたことから、入居者や家族の要望に合っていない老人ホームを選ぶという結果を生み出しているのです。

したがって、老人ホーム選びで最も大切なことは、親が元気なうちから老人ホームの知識を身に付けておく。そして、その知識を基に地域の施設情報を集めて実際に老人ホームの見学をしておくことです。そうすることで、大切な親を安心して預けられる老人ホームを見つけることができるのです。

とは言え、未婚者の増加や女性の社会進出などで、本当に必要かどうかわからない老人ホームの知識の習得や情報収集に時間を割くことができない人もたくさんいます。

ですので、老人ホームを探す時間が限られている。もしくは、老人ホームを家族だけで探すことに不安を感じているというような方は、当相談窓口にお気軽にご相談ください。あなたや親の要望を聞き取りながら、その内容に見合った施設をご案内いたします。