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認知症を患った親を老人ホームに預ける

認知症を患った親を老人ホームに預ける

人は誰しも歳を重ねれば、体力は少しずつ低下していきます。そして、当たり前のようにできていた家事が少しずつ億劫になり、次第に一人ではできなくなります。そうした中、在宅介護で最も家族を悩ますのは認知症の進行です。

認知症になったら老人ホームに預けるという選択肢はいいのか?

はじめは軽いもの忘れしかなかった親が次第にお金や薬の管理もできなくなった。さらに最近はトイレを失敗するようになったり、同じ話を何度も繰り返したりするようになった。

こうして、介護をする家族の負担は少しずつ増えていきます。実際、多くの人は認知症が進行していく中で訪問介護(ホームヘルパーの派遣)やデイサービスなどを利用して、家族の介護負担を軽減します。

しかし、そうした介護サービスも利用者の要介護度に応じて支給限度額があるため、家族の要望をすべて満たせるわけではありません。そのため、介護サービスで足りない部分は、やはり家族が行うことになるのです。

とは言え、介護をする家族も日中は仕事をしている。または体力的な問題などで在宅介護を続けられない人もいます。

そこで検討するのが「親を老人ホームに預ける」という選択肢です。その中でも今回は認知症を患った親を老人ホームに預けるときに注意すべき点などについてお話ししていきます。

親を説得することはできない

老人ホームの入居相談の中で介護をする家族を最も悩ますのは認知症を患った親を施設に預けるときです。なぜなら、こうしたケースでは、本人(親)が老人ホームの入居に納得していない状況で話を進めていかなければならない場合があるからです。

実際、当相談窓口にも「どのような方法で親を説得すればよいでしょうか」という問い合わせは少なくありません。

その中で私自身もこれまでにいろいろな方法で説得を試みましたが、思うように説得することはできませんでした。中には、老人ホームの見学にお連れする状況まで持っていけることもありますが、結局は見学した後に本人から「まだまだ自宅で暮らせる」「こんなところには入りたくない」「私は老人ホームに入るなんて一言も言っていません」と言われてしまうのです。

こうしたことから、私自身は「本人を説得できない中、どのようにして老人ホームの入居につなげていくのか」ということについて、深く考えるようになりました。

そこで私が導き出した答えは、「老人ホームで生活したこともない人を説得することはできない」ということです。実際、認知症を患った方でも上手く説得できる場合もありますが、次の項では老人ホームの入居を拒否する方の対応方法について説明していきます。

安心して暮らせるかは老人ホームに入居した後にしかわからない

はじめにこの文章を読まれているあなたに質問させていただきますが、これまでの人生の中で引っ越しを経験されたことはありますか?

多くの方は就職や結婚で一度は引っ越しを経験されているのではないでしょうか。中には、就職や結婚を経験しても実家で暮らし続ける人もいるかもしれませんが、そのときは中学校の入学時や就職して間もないころを思い越こしながら文章を読み進めてください。

次にあなたは引っ越しや人生の新たな門出を経験して、どのような心境になりましたか?

土地勘のない地域や知り合いがいない状況での生活に不安を感じる人も多いはずです。反対に新しい暮らしに心を躍らせる人もいるでしょう。その一方で、同じ引っ越しでも老人ホームの入居についてはどのようなイメージが湧いてきますか? おそらく、この文章を読まれている人の多くは老人ホームに入居した経験がないでしょう。

そのため、老人ホームでの生活を想像することしかできませんが、「明るく楽しい生活が待っている」と期待する人はほとんどいないのではないでしょうか。そして、認知症を患った高齢者もあなたと同じような想像をします。具体的には、老人ホームは「寝たきりやボケた人が入るところ」「自由な生活ができないところ」などと考えているので、一生懸命に説得しても上手くいかないのです。

では、実際に老人ホームで生活している人はどのような経緯で入居することになったのでしょうか。

その経緯は3つに分かれますが、1つ目は入居者自身が老人ホームに入ることを決断したときです。このときは、家族が説得する必要もないため、本人と一緒に希望に合う施設を探せばよいのです。

次に2つ目は、入居者が拒否できない状況になっているときです。具体的には、脳梗塞の後遺症や加齢による体力の低下などで介助なしでは生活できない状態になっている。もしくは、認知症の進行で家族との会話が成り立たない状態になっており、老人ホームの説明をすることさえもできない。

このようなときは、本人が複数の施設を見学に行くことが難しくなります。したがって、家族が中心になって施設を選ばなければならないのですが、説得するという行為はほとんど必要ありません。

そして3つ目は、入居者を説得できないけれど、家族が在宅介護に限界を感じているときです。ここでのポイントは、「入居前に説得することを諦める」ということです。これはどういうことかというと、説得できない人は老人ホームより今住んでいる自宅の方が安心して快適に暮らせると考えています。したがって、あえて本人を説得しようとしないのです

具体的には、老人ホームに入居するという説明以外の方法で本人を説得して、まずは施設で生活してもらう。その中で、老人ホームでも安心して暮らせることを実感してもらうのです。

そうすることにより、ゆくゆくは入居した施設が本人にとって居心地の良い住まいになり、自宅に帰りたいという気持ちも薄らぐのです。

ただし、このような方法をとる場合は、選んだ施設が本人にとって居心地の良い場所でなければ意味がありません。したがって、施設の雰囲気やその施設で働くスタッフの人柄が親に合っているのかを確認しながら施設を選ぶ必要があります。

その他、預かる側の施設にも本人が「老人ホームの入居に納得しているわけではない」ということを理解していただきながら対応してもらわなければなりません。老人ホームの中には、こうした状況の方でも柔軟に対応してくれる施設もあれば、本人が納得していない状況では対応してもらえない施設もあります。

その判断もケースバイケースにはなりますが、こうした対応の違いも考慮しながら施設を選ぶようにしましょう。